2022.05.12

NFTを試してみた。暗号資産の購入からNFTマーケットプレイスへの出品まで

NFTに関しては,商標や著作権など知的財産が関連するニュースもよく見かけます。パテントサロンでも紹介しています。しかし私はこれまで,NFTも暗号資産も触ったことがありませんでした。そこでこれらを実感するために,暗号資産の購入からNFTマーケットプレイスへの出品まで,実際に試してみることにしました。なお,私は著作権や商標の専門家ではありません。また暗号資産の専門家でもありません。この記事は,いちユーザとして体験した内容と感想を書いたものです。

実施した内容
・Coincheck 口座開設
・銀行口座から Coincheck に送金
・Ethereum を購入
・MetaMask 登録
・Ethereum を MetaMask に送金
・OpenSea で NFT 作品を購入
・ENS ドメイン名を取得
・ENS ドメイン名を割り当て
・NFT マーケットプレイスに出品する動画を作成
・OpenSea に出品。販売開始

関連リンク
drone ambient ver. N #001 - cytechLab Synth Jam _ OpenSea
 私が出品したNFT作品のページ
cytechLab - Profile _ OpenSea
 私が所有しているNFTアイテム(購入したアイテム,登録した作品等)

Image03c


関連情報がネットに多数あるので,実施に困ることはほとんどありませんでした。暗号資産の取引所にCoincheckを選択したことに特に理由はありません。今回は暗号資産の運用などではなくイーサリアムの購入が目的なので,特にこだわり無く選択しました。NFTマーケットプレイスにOpenSeaを選択したのは,だれでもすぐに簡単に出品できるからです。

OpenSeaでは,まず,NFT作品の購入を試してみました。以前ニュースで見かけた作品を購入しました。この作品の収益は,救援基金に寄付されます。

Satin Vandal for Ukraine - Vandalz For Ukraine OpenSea

※関連ニュース
ウクライナ支援 「NFT」使ったデジタルアート販売の動き広がる

つぎは出品です。スマホで撮影した動画を出品しました。出品するにあたり,NFTの特徴のひとつである数量限定販売を実感するために,同一作品で3つMint(NFTを発行)してみました。限定数3の作品です。そしてこれもNFTの特徴であるロイヤリティ(二次販売の対価)も設定してみました。このNFT作品を購入した人がこのNFT作品を別の人に販売(再販)した場合,再販で生じた収益の一部が出品者の私に送金されます。通常のリアル売買にはない,再販で生じた収益の一部が作者に還元されるしくみです。取引履歴が記録されるNFTの特徴を利用したシステムです。

今回私は固定価格販売を選択しました(他にオークション販売等を選択することができる)。価格は1000円程度を目安に0.003ETHに設定しました。今回の出品はNFT作品の出品を体験することが目的であり,売買で収益を上げることはあまり想定していないので,この価格は適当です。購入する際には,この価格に加えてガス代(手数料)がかかります。ガス代は常に変動していて,現在,数千円程度から1万円以上かかることもあります。作品の価格より高いですw

NFT作品の売買について,知的財産の観点では,NFTに関する誤解がよく話題になります。たとえば,NFTを買うことは著作権を買うことであるとか,NFTだからコピーできないとか,NFTだから作者が作った本物であることが証明されているとか。最近もこのような出来事がありました → 左ききのエレンNFT漫画事件簿【NFTアートの正しい理解に向けて】。この他,自分の著作物が許諾無く第三者に勝手に出品されているというニュースも見かけます。

今回私は実際にNFTを触ってみて,これらとは別に,NFT作品を売買する際に知財的観点から気になった点があったので,個人的感想として紹介します。



知財的観点から気になった点ひとつめは,出品されているNFT作品の著作権に関する記述についてです。NFT作品を購入することにより何が許諾されるのかよくわからない場合が多数ありました。

NFTでは,作品の取引に関する情報がブロックチェーン技術を使って記録されていきます。しかし著作権の移転や使用許諾に関連する情報が記録される機能はいまのところないようです。従って,NFTマーケットプレイスでNFT作品を購入しても,その作品をどのように使用できるかについては,NFTの記録を見ただけではわかりません。

NFT作品の購入者としては,たとえば購入した画像を,SNSのアイコンに使ってもよいのか? SNSに投稿してもよいのか? 印刷して部屋に飾ってもよいのか? 印刷して配ってもよいのか? 有料で配布してもよいのか? 一部を切り取って使ってもよいのか? 自分のデザインと組み合わせて使ってもよいのか? などについて知りたいのですが,それらを簡単に知ることができる記述を見つけることができませんでした。

今回出品したNFTマーケットプレイスのOpenSeaでは,Terms Of ServiceHelp Centerに知的財産権に関する記述があります。たとえばTerms Of Serviceには「7. Intellectual Property Rights」があります。しかしそれは出品者がOpenSeaに対して表示などの使用を許諾する内容であったり,またOpenSeaがサブライセンスできるという記述もあるのですが,購入者に与えられる権利についてはよくわかりません。どこかに明記されているのかもしれませんが,いちユーザの私は見つけることができませんでした。

その一方で,NFT作品の中には,個別に著作権の許諾に関する記述が掲載されているものもあります。たとえば Murakami.Flower #7777 では,Descriptionに権利の記載があり,そのリンク先にはさらに詳細な記載があります。

このように,著作権の許諾に関する記述が作品ごとにまちまちで統一されていないため,簡単に知ることができません。実際にネットでは「NFT作品を購入したのですが購入した画像を自分のtwitterアカウントのアイコンに使ってもよいのでしょうか?」のような質問も見かけます。

一方,自分が出品する場合,著作権についてどのように記述してよいかわからないケースも多そうです。自分が意図していることを正しく記述できる人はそれほど多くないかもしれません。私も自分が出品するにあたりとりあえず記述してみましたが,これで十分なのか? 英文も併記したけれどこれは正しいのか?,自信がありません。今回は出品すること自体が目的なのでこれで進めていますが,本気で作品の売買が目的だったら専門家に相談したと思います。

このあたり,NFTマーケットプレイスの機能として,出品時には,入力必須の著作権に関する記述欄,記述サンプルの提示,項目を選ぶと著作権に関する記述が自動作成される機能などがあるとよさそうです。クリエイティブ・コモンズのような選択制もいいかもしれません。

なお,NFTマーケットプレイスによっては,このような機能がある程度備わっているところもありそうです。たとえばAdam byGMOをみると,出品されている作品のページを開くと,すぐに「著作権等に関する注意事項」が目に入るようになっています。そこにはその作品に関する許諾内容が記述されています。

知的財産権の扱いが明確になっていれば,購入側出品側の双方にとって,スムースで安心安全な取引がより進むと思います。NFT作品を使用するのではなく投機の対象として扱うのであればそれほど重要ではないのかもしれませんが,コンテンツの使用を考えると,知的財産権に関する記述は必須・重要です。全てのNFTマーケットプレイスについて,このような機能が備わっているとよいと思います。



知財的観点から気になった点ふたつめは,ENSドメイン名です。これはインターネットのDNSドメイン名に似ています。たとえばNFT売買にも使われる暗号資産イーサリアムでは,取引に以下のようなアドレスが使われています。

0xf3A116b302c8D460E5b174FE684d4D76D5274C11

これは私のウォレットのアドレスです。このアドレスを指定して送金すると私に送金されます。もちろんこの文字を記憶したり打ち込む必要は無く,コピペして送金先を指定します。しかし,人間が一見してどのアドレスであるか判断できないのは不便です。間違って別のアドレスをコピペしてしまう可能性もあります。これを解決するのがENSです。文字の羅列であるアドレスを人間が読みやすい文字に変換します。

0xf3A116b302c8D460E5b174FE684d4D76D5274C11  =  cytechlab.eth

cytechlabは私のアカウント名「cytechLab」です。YouTubeやNFTマーケットプレイスなどで使っているアカウント名です。これでずいぶん扱いやすくなりました。送金先にcytechlab.ethを指定すれば,私に送金されます。

このシステムは,先に書いたとおり,インターネットのDNSとよく似ています。そしてDNSで起こったことと同じことがENSでも起きています。ENSドメイン名は早い者勝ちで取得できます。自分とは関係の無い有名なブランド名でも早い者勝ちで取ることができます。かつてDNSドメイン名では,自社ブランドと同じ文字のドメイン名を第三者に取られてしまった有名企業が,大金を払って買い戻したというニュースがありました。現在は紛争処理のしくみがあり,商標権を持っているなどいくつかの条件を満たせば,第三者が持つドメイン名を取り消しまたは移転できる場合があります。

しかし,ENSにこのような紛争処理のしくみはありません。早い者勝ちでどんどんドメイン名が取得されています。そして売買も行われています。DNSドメイン名はヤフオクなどで売買されていました。ENSドメイン名はNFT売買に使えるイーサリアムのドメイン名であるということもあり,売買は非常にやりやすくなっています。取得したENSドメイン名はNFTマーケットプレイスであるOpenSeaに自動で登録されます。ドメイン名の所有者は,管理画面で「Sell」ボタンを押すことにより,簡単にドメイン名を売りに出すことができます。好きな値段を付けて売ったり,オークションに出したり,買いたい人からのオファーを待つこともできます。売買を想定したドメインの取得が盛んに行われる環境が整っています。

OpenSeaに登録されているENSドメイン名がこちら。全てが売りに出ているわけではありません。

ENS_ Ethereum Name Service - Collection _ OpenSea

検索してみると,よく知られている企業名やブランド名もヒットします。そして様々な値段が付けられ,売られています。関係者が取得しているのか第三者が取得しているのかわかりませんが,自社や顧客企業などのドメイン名については,確認しておいた方がよいかもしれません。今後このENSが広く使われていくかはわかりませんし,「.eth」以外はどうするのか? などありますが,気にしておいた方がよいと思います。

ENSドメイン名の登録状況は下記サイトで確認できます。

Ethereum Name Service

下記twitterアカウントは,新たに登録登録されたENSドメイン名をツイートしているbotです。多くのドメイン名が日々取得されていることがわかります。

ENS Registrations Bot 🤖(@ensregistry)



今回,NFTについて,暗号資産の購入からNFTマーケットプレイスへの出品まで,実際に体験してみることによって,多くのことを実感することができました。そして様々な可能性を感じます。NFTのメリットが広く知られるようになると,現在主に行われている暗号資産を使った電子データ作品の売買だけではなく,より気軽に扱える現金やクレジットカードを使った売買や,ICタグなどを利用したリアル作品のNFT化もさらに進むかもしれません。

また,NFT作品の売買以外にも多くの可能性を感じます。すぐに思いついて私が欲しいと思った機能が,電子書籍の貸し借りです。電子化されたことで消えてしまったリアル本のメリットをある程度取り戻せるかもしれません。しっかりコントロールすれば著者の利益もしっかり守ることができ,また増やすこともできるかもしれません。

NFTは,電子データにリアルのメリットを加えることができる特徴があると思います。この特徴はいろんなところで応用できそうです。いろんな新しい使い方が生まれそうな気がしています。

 

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