Web 2.0 と知財担当者
以前このブログでWeb 2.0について少し触れたことがあるのだが,その後,その記事がきっかけで何人かの方からメールをいただいた。中にはオフィスまで来られた方もいて,有意義な会話をすることもできた。しっかりアンテナを張っている人と話をするのは楽しい。
さて,先のブログでは「このWeb 2.0について知財担当者もシンクロしておく必要がある」と書いたのだが,その理由は大きく3つある。
1番目の理由は,知財担当者,特に特許担当者は,常に技術の動向を意識する必要があることだ。
Web 2.0は次のステップのネット環境であり,新しいネットビジネスの温床である。Web 2.0への変化を見逃してはいけない。というよりむしろ,見逃すともったいないと言うべきか。
2番目の理由は,Web 2.0については,知的財産権という観点からしっかり考える必要がありそうなことだ。
Web 2.0では,リミックスやマッシュアップという言葉がキーワードの1つになっている。これらは,他人が提供しているサービスを利用して新しいサービスを作成し提供するというものだ。例えば,Google mapを利用した不動産業者による不動産仲介サイトなどがすでに公開されている。
リミックス/マッシュアップして作られたサービスでは,異なる複数の企業が作成したコンテンツが組み合わさって1つの画面として表示される。著作権,商標権,特許権などの権利関係は複雑だ。
ちなみにこのリミックスとマッシュアップという言葉,もとは音楽用語で,複数の曲を混ぜて新しい曲を作ったり,複数の曲から音を取り出してそれらを組み合わせて新しい曲を作るという意味の言葉である。こちらの方でも著作権上の論争は絶えない。
また最近では,多くのサイトにGoogle AdSenseによる広告が表示されている。これもある意味,複数のコンテンツが組み合わさって1つの画面として表示されている状態だ。
従来の広告は,比較的ページビューが多い大手企業のサイトにバナーが表示されるというものだった。対象となるサイトはそれほど多くはなく,どの様に広告が表示されるかについてある程度コントロールすることができた。
これに対しGoogle AdSenseでは,ページビューが非常に少ない個人のブログサイトにも広告が表示される。対象となるサイトは莫大な数だ(ロングテール)。全てのサイトについて広告の表示状態をコントロールすることは不可能である。以前よりも権利的な問題が発生しやすいかもしれない。
さらに,Web 2.0では,多くの人によって情報が作られることがある。例えばソーシャルブックマークでは,多くのユーザが付けるTagによって,情報は分類される(フォークソノミー)。複数の人の作業によって,情報の価値が高まっているのだ。こうやってできあがったデータベースの権利関係については,明確にしておく必要がある。AmazonのレビューやWikipediaも多くの人によって作られている。権利の扱いはないがしろにできない。
Web 2.0と知的財産権は,一見非常に相性が悪い様に見える。知的財産権が技術やサービスの進歩・普及を妨げる様に感じることもある。しかし果たしてそうなのだろうか? 知財担当者としては考えずにはいられない。今までの考え方とは違う考え方が必要なのかもしれない。いずれにしても幸福な社会の実現には,知的財産の保護と利用のバランスがポイントになることには変わりはないはず。
3番目の理由は,Web 2.0の知財業務への適用が考えられることだ。
知財戦略を考えるときには,パテントマップを作ったり,パテントポートフォリオ分析を行ったりする。いずれも特許の抽出・分類作業が必要で,IPC分類を使ったりテキストマイニング技術を使ったりするわけだが,例えばこのとき,特許公報をフォークソノミーしたらどうだろうか?
また,企業内における公報チェックにソーシャルブックマークシステムを使ってみるのはどうだろう? 権利がチェックできるだけでなく,各社員のブックマークを見ることによって優秀な知財担当者を発掘することができたり,技術的仲間を見つけることができたりするかもしれない。公報チェックに対する熱心度も一目瞭然だ。知財担当者にとっては手が抜けず厳しいものになるだろうが...。
企業の中に存在する「知」をうまく引き出し,うまく並べて,効果的に使える状態にする。これこそ企業の中の知財担当者の役目のように思う。Web 2.0な技術がうまく使えそうだ。
ということで,Web 2.0について知財担当者もシンクロする必要があると考えるわけです。
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